

耳掃除は必要か? たいていの方は耳がきれいになると何の疑問も無く耳掻きや綿棒による掃除(実はそうではない)をされていることと思います。
本当にそれで耳がきれいになっていると思われますか?
そもそも耳垢とは何でしょう。
耳垢に限らず垢とは表皮の角質層が剥がれ落ちたものです。
耳掻きや綿棒は一体耳に何をしているのでしょうか。本当の意味での掃除とはごみや汚物を取り除いて清潔に保つことです。綿棒や耳掻きは、耳の掃除道具と一般的には信じられておりますが現実は程遠いものです。
我々耳鼻科医も綿棒を使用しますが、市販のものよりもずっと細いものを使用しています。耳を掃除するには、
第一に汚れの具合や場所をよく観察することが大切です。
第二に耳垢をつまみ出したり吸い出したりする道具が必要です。耳掻きのような掻き出す道具は外耳道に傷をつけるので実は不適当なのです。
第三に道具を合理的に使う技術が必要です。耳をよく観察するには、額帯鏡またはヘッドライトと耳鏡(ラッパ型の道具)が必要です。耳垢を除去するには、耳用摂子(せっし・・ピンセット)あるいは小型の鉗子が、吸引するには吸引機や吸引管が必要です。またそれらを使いこなすには、ある程度トレーニングが必要です。
つまり本当の耳掃除は、かなり大変な行為です。おいそれとできるものではありません。また我々でも取るのに苦労する方もおられ、仕方なく傷を残したり出血したりすることもまれではありません。そのような場合は、傷の処置や消毒が必要です。
話を戻しますと耳掻きや綿棒は、見えないところをただ闇雲に引っ掻いているに過ぎません。たまたま取れる場合もありますが取れたのは一部で大部分残っていることもあります。また剥離した表皮を耳垢だと誤解していることもあります。逆に耳垢を中に押し込んでいることもまれではありません。傷をつけて細菌感染、真菌感染を起し耳漏をきたしていることも良く見られます。また感染がひどくなると痛みを生じひどくなると顔面が腫れたり頸部が腫れたり高熱を発したりする方もおられます。全身状態が悪く免疫力が低下している場合は、感染が脳にまで及ぶと命を落としかねない悪性外耳道炎という最悪の状態になることもあります。またしょっちゅう掻いているとこれは慢性外傷ですので、外耳道の皮膚が厚くなりその下の骨も厚くなり外耳道が狭くなっている方も見受けられます。こうなったら元の戻すのに手術が必要となります。また外耳道炎が慢性化してなかなか治らないか治ってもすぐ再発する状態になります。
![]() 耳掻きや綿棒で一切傷のついていない、正常な鼓膜の写真です。しかも奥には耳垢は全くありません。 |
![]() 過剰な耳掻きにより、外耳道(耳の穴)の骨が変形を起こし、外耳道を狭めています。 |
![]() 耳掻きによって、外耳道に炎症および出血を起こし、鼓膜にもその血液が付着してしまっています。 |
私は、耳掻きや綿棒は逆に耳鼻科医の仕事を作る道具だと解釈しています。お世辞にも耳掻きや綿棒で掻くのは、掃除とはいえません。耳を汚染しているほうが多いでしょう。全く自己満足の世界です。もちろん程度問題で限度を越えない限り疾患を起しませんが、耳掻きの細かい傷口からの感染や異物の混入が痒みを引き起こし、痒みをとるためにさらに掻きむしり、さらに痒みを悪化させまた掻きむしる・・・。
この悪循環が最後に上記のような外耳道炎を引き起こしますので最初から何もしないのが懸命だと思います。
耳掃除は必要ないのかという質問を良く受けますが、健康な耳は、耳垢は自然排泄されるので耳垢の除去は不要です。放置して耳垢が詰まってしまう状態になるのは、一種の疾患ですから耳掻きではなく耳鼻科専門医の耳垢の除去が必要です。
さあ、耳掻きはゴミ箱へ捨てましょう。綿棒は、耳いじり以外の用途に使いましょう。
鼻を悪くされてこちらにみえる方も多いことと存じます。鼻汁や鼻閉で鼻呼吸ができず苦しいから来院されるのでしょう。苦しいから当然口呼吸になっている方もおられるようです。
でも、処置でせっかく鼻を通してあげても口呼吸の癖が抜けない方もいらっしゃいます。これでは治療効果が半減しますので少なくとも処置の後、鼻で呼吸ができるようになったら必ず鼻呼吸をするようにしてください。風通しが悪いと鼻の病気は治りませんよ。
喉頭がんなどで喉頭摘出術後、鼻呼吸ができなくなった方は、鼻の粘膜がどんどん萎縮してまいります。永続的な空気の流通が無いと鼻の健康は保てないことが、このことからよくわかります。
鼻は呼吸器系で空気が一番先に入るところで、門番の役目をしています。塵埃や病原菌を除去しさらに加湿し以下の気道に空気を送り込みます。鼻がコケるとそれ以下の呼吸器がコケることが多いのです。
アレルギー性鼻炎と喘息の合併は最近重要視されており、喘息の患者さんの60から80%はアレルギー性鼻炎を合併するといわれており、反対にアレルギー性鼻炎の患者さんの30から40%は喘息を合併すると言われております。またアレルギー性鼻炎の治療を行っているほうが喘息は治りやすいのは医学的に認められています。
喘息とアレルギー性鼻炎はOne airway, one disease.(ひとつの空気の通り道にひとつの病気)とひとつの疾患群として考えられています。他に副鼻腔炎と気管支炎などの下気道の炎症と合併する副鼻腔気管支症候群があります。これは、耳鼻咽喉科疾患における慢性の咳の原因の多くを占めます。
鼻というのは、呼吸器における有能な門番がいるセキュリティの高い玄関と考えることができます。口呼吸するのは、セキュリティの無い裏口から人を入れるようなものです。どんなものが入ってくるか分かったものじゃありません。また口呼吸は、口臭、虫歯、歯列不正など口腔科領域でも疾患を引き起こします。皆さん口呼吸はやめて鼻呼吸をしましょう。普段から鼻呼吸ができるように鼻の疾患は、早期治療しましょう。
病気はみなさんにとって本当に困りものです。当医院に来られたのは、耳や鼻あるいは喉の不具合があったからでしょう。たとえばアレルギー性鼻炎の場合は鼻の病気ですので主に鼻の処置をしてから、アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬を服用していただきます。たいていはそれで症状は抑制されます。あくまでも症状を「抑える」薬による治療ですので、薬効が切れるとまた悪化します。薬が無くても症状が出なくなるまで続けるわけです。
しかし、そのまま治ったり、薬が無くてもすぐ悪化せずにしばらくいい状態が続いたりする場合があります。それは、薬で症状が抑えられ荒れた粘膜が修復しアレルギー反応が起こりにくくなる、つまり自然治癒力が働くからです。結局のところ治療とは、たいしたことはしていないのでやることはやって後は自然に任せましょうというのが現状です。
それはさておき、全然病状が改善せずに薬をやめることができないとか薬が全く効かないということがたまにあり、患者医師双方を悩ませます。鼻炎の場合レーザー手術という手もありますが、効果が不十分であったりなかったりします。
ステロイドの全身投与も副作用を考えると長期に使用できません。鼻炎だからといって鼻のことばかりを考えるには限界があります。それを答える前にそもそもアレルギーとは何か考えて見ましょう。アレルギー性鼻炎の場合は、主にダニの糞や死骸や花粉などの抗原性を持った異物が鼻腔に進入し免疫系で拒絶反応が起こることによる病状です。病原体に対して起こるのは正常の免疫反応なのですが、全く人体に無害なものにたいしても起きるのはいわゆる免疫の暴走といえましょう。
「花粉やダニなんて大昔からあった筈なのになぜ今問題になるの?」と気づかれた方、あなたは大変鋭い洞察力を持っています。そうです、そこに答えがあるはずです。では今と昔何が違うのでしょう。昔といってもそんなにさかのぼらなくても昭和初期ぐらいで十分です。社会に目を向けてみましょう。
工業化や車社会による環境汚染特に大気、めまぐるしく変化する生活様式や労働者の過密スケジュール。食はどうでしょう。日本食から高カロリー、高脂肪食と食の欧米化、ファーストフードの普及、高脂肪のスナック菓子、野菜を食べない人口の増加、魚肉から畜産物へのシフト、保存食の普及から食品添加物の増加、米穀物食の衰退などが挙げられます。つまり現代人の生き方そのものが病気を生み出す間違った生き方をしているといえます。
現代人が生きていく上でやむを得ず避けられない有害事象があるとも思いますが、自然治癒力によって有害事象を完全に無害化できているときは健康で、できないときに疾患が発生します。
健康を保つには如何に有害事象を減らし、自然治癒力を助けるかに尽きます。
薬というと治療における主役のように皆さんは勘違いされているのではないでしょうか。病気の治療に用いられていることから体にいいものと思われている方も多いことでしょう。確かに滋養強壮剤もありますが普段医者にかかって処方される薬物のほとんどは、本来毒性を持っています。
「毒にも薬にもならない。」という言葉があるように薬は本来毒であるから使い方によっては、有益な作用をもたらすこともあり、副作用を起こしたりもするのです。「毒を持って毒を制す。」という言葉どおり体にある有害物質や有害事象を無毒化したり、回避したりするのです。よって必要もないのに薬は服用すべきでなく、また必要な場合も最小限に済ませたいものです。
現代医学における西洋薬は、代謝経路の化学物質の一部をピンポイントに阻害するものが多いようです。よって切れ味はいいものが多いのですが、全体の生命の営みからすると代謝バランスを崩すことが懸念され長期に使用された場合は、何が起こるかわかりません。そのあたりを踏まえたうえでできるだけ薬物が不要になるようにする努力は怠るべきではありません。
薬には病気の原因に対して直接作用(原因療法)する薬剤と、病気の症状を軽減する(対症療法)薬剤に分かれます。また治癒を促進する薬剤もあります。症状を軽減するだけで疾患自体を治癒の方向に向ける場合もあります。原因療法の薬剤の代表は、抗生物質、抗真菌剤、抗ウィルス剤などです。抗ウィルス剤は今のところインフルエンザとヘルペスウィルスに対してのみあります。病原体自身を直接たたくわけですから感染症は薬剤で治るはずと思われがちですが原因が耐性病原体(薬剤が効かない)であったり、病原体を薬剤で減らしても体の抵抗力が低下していたりすると感染症は治りません。
そのほかの薬剤はほとんど対症療法の薬剤です。耳鼻科でよく処方されているものは、鎮痛解熱消炎剤(熱さまし、痛み止め)、消炎酵素剤、抗ヒスタミン剤や抗ロイコトリエン剤に代表される抗アレルギー剤、末梢循環改善剤、ビタミン剤、去痰剤などがあります。
抗アレルギー剤は、アレルギー性鼻炎や気管支喘息に用いられる薬剤です。抗ヒスタミン薬は主に鼻汁を止め抗ロイコトリエン剤は主に鼻閉の改善に用いられます。また抗ロイコトリエン剤は、咳喘息の咳を鎮めます。これらは一時的に症状を鎮める対症療法ですので疾患自体がある程度鎮静するまで続けなければなりません。
さて、医薬品は使い方さえ間違わなければ、非常にありがたいものです。感染症を治したり、疾患の治癒を促進したり、疾患はそのままでも症状を鎮めることにより生活の質(QOL)を落とさずに生活できたりします。しかし副作用で薬が使えなくなるという問題以外に薬剤は落とし穴があるということを忘れてはなりません。「薬剤の効能に甘えてしまう」という落とし穴です。症状がなくなると、疾患が治ったと勘違いして普段の生活において養生(療養)する努力を怠ってしまうことです。つまり薬が不養生を引き起こすということです。これはまさしく本末転倒であり薬が病気の引き金を引いているということになりかねません。薬をお飲みの皆様、症状が無くとも普段の生活で養生(療養)を決して怠ってはなりません。
この病名を耳にされた方は多くいらっしゃると思います。
耳管カタル、耳管狭窄症なども類義語です。急性中耳炎とどこが違うのかと疑問をお持ちの方も多いでしょう。急性中耳炎と比べてとても厄介です。
急性中耳炎は、中耳腔の急性の細菌感染で激しい痛みですぐ医者にかかり抗生物質や鼓膜切開等で比較的に短期に治癒する疾患であるのに対し、滲出性中耳炎は軽度なら無症状だからです。気が付かれずに経過し悪化しても耳が詰った感じや少し聴こえにくいだけで放置されるケースも多いです。重症化して中耳腔に滲出液が貯留し聴力がかなり悪化し鈍い痛みが生じて初めて来院するケースが多く治療に難渋することがよくあります。
また、長期間にわたって治療が必要なことが多く経過中少し良くなっただけで症状が消えてしまうこともしばしばで、それで治療を止めてしまって再び悪化するということがあり、なかなか治癒までこぎつけない疾患です。この疾患の本態は、鼻腔と中耳腔をつなぐ耳管という管の通りが悪かったり内空の粘膜の働きが悪かったりして、鼓膜の内側が陰圧になってさらには中耳腔に滲出液が貯留することです。(図を参照)
治療としては、「耳管通気法」が最初に行われる治療ですが年齢が低いと難しいことがあります。通気法は、耳管カテーテル(先が折れ曲がった金属の管)で鼻から耳管開口部に挿入し圧縮空気を送り込む方法と、ポリッツェル球を用いての圧縮空気を「ラッパ」などと発音させたときに鼻腔に送り込む方法があります。カテーテルを使用したほうがより効率的ですが幼少期は困難です。通気法が無効である場合は、鼓膜を尖刺や切開して滲出液を抜いたり、廃液が効率よく行われるために鼓膜に換気チューブを留置したりします。
滲出性中耳炎は風邪などの一時的な上気道の炎症に伴う一時的なものから、慢性の年余にわたる治療が必要なものまであります。一般的には治りにくいと認識してください。
この疾患にもっとも適した検査は、「ティンパノグラム」と言って鼓膜のコンプライアンス(動きやすさ)を測るものです。子供と老人に多く、特に成人の場合は難治です。
幼児期から発症した滲出性中耳炎は、治療すれば9歳までに約9割は治ります。自然治癒もあり得る疾患ですが成人型に移行すると一生付き合うことにもなりかねません。治療を開始して経過を見ながらティンパノグラムで検査していきますが、途中で検査が正常になって治療をいったん終了しても再発を早期発見するために定期検査が必要です。
この疾患にかかってしまったら長期の治療が必要ですが、途中で投げ出さないように頑張って治療をしてゆきましょう。